12年の軌跡を、一冊の本に綴じるまで。「Document of Ginza Sony Park Project」の制作過程を振り返る。(前編)

2026.8.25

イントロダクション

木目調の壁を背景に、大きな銀座の街並みの写真を背にして座る3人の男性。左から白いシャツの伊藤総研、中央の黒いシャツの永野大輔が笑顔で話し、右側の白いシャツにメガネ姿の色部義昭が耳を傾けている。テーブルには書籍と水ボトルが置かれている。

建築のように自立する、400ページに及ぶドキュメントブック『Document of Ginza Sony Park Project』。Ginza Sony Parkのグランドオープンに至るまでの約12年間にわたる思索と実践は、どのように一冊にまとめられたのか。

Ginza Sony Park主宰の永野大輔、プロジェクトに長年並走してきた編集者でプランナーの伊藤総研、『Sony Park展』の会場デザインも手がけたグラフィックデザイナーの色部義昭。企画、編集、デザイン、それぞれの立場から本書に携わった3人が、その制作過程と、そこから見えてきたGinza Sony Parkらしさを語る。

3歩進んで、2歩下がる。

手前の人物がめくっている書籍『Document of Ginza Sony Park Project』の誌面アップ。左ページには「MUSIC IN THE PARK」と書かれた展示風景や色とりどりの付箋が貼られた壁の写真があり、右ページには英語と日本語のテキストと小さなモノクロ写真が掲載されている。

永野:12年に及ぶプロジェクトの軌跡がかたちになったのは、おふたりをはじめとする多くの方にご尽力いただいたおかげです。僕は持ったときの重さからも"Ginza Sony Park"を感じます。

伊藤:佇まいからして"Ginza Sony Park"ですね。

色部:手前味噌ながら、僕もとても気に入っています。

伊藤:永野さんは2017年に初めてお会いしたときから、「このプロジェクトは記録しないといけない」とおっしゃっていましたね。

永野:そうでしたね。ソニービル建て替えプロジェクト(Ginza Sony Park Project)がはじまった2013年から、その意識はありました。特別な存在であるソニービルを建て替えるのだから、その責任者として「なぜ建て替えるのか?」を説明する責任があると思っていました。当時は本にするという具体的なイメージはありませんでしたが、その思いを総研さんに伝え、2017年からプロジェクトに並走いただくようになりましたね。

伊藤:設計からアクティビティまでさまざまな会議に参加させてもらいました。プロジェクトの記録を"本"にすると決まったのは、グランドオープン直後ですね。

永野:実は、書籍制作がはじまる前、ジャーナリストの川島蓉子さんがこのプロジェクトに興味があると訪ねてきてくださったんです。川島さんと2年間近く対話を重ねたことで、断片的な記憶がつながりました。そのトレーニングのような時間は、書籍制作にも活きていたと思います。

白いシャツを着た伊藤総研が、テーブルの上にある白い表紙の書籍『Document of Ginza Sony Park Project』の横で、右手を前に伸ばして身振り手振りを交えながら熱心に語っている様子。
伊藤総研/編集者・プランナー

伊藤:僕はプロジェクトに並走させていただくなかで、数寄屋橋交差点に立つGinza Sony Parkは、街の一丁目一番地のような場所だと感じていました。そんな場所を記録するならば、外から見た視点もあった方がいい。そう思い、今回書籍では、多田智美さん率いる編集事務所のMUESUMにもチームに加わってもらいました。
ある程度の背景は理解しているつもりでしたが、永野さんをはじめとするGinza Sony Parkチームは、ソニービル時代の資料を含め、素材をすべて洗い出し、関係者の方々に改めて話を聞く場を設けてくださった。ここまで重い本にしない編集もできたなかで、チームが追求したのは"深さ"だったように思います。400ページという厚みは、その結果ですね。

永野:プロジェクトの動きが記録されているだけでは足りない。さまざまな決断の背景にある思いやプロセスまで伝わる本にしたいと思ったんです。

伊藤:永野さんは代表という立場であるにも関わらず、章立てや文章の構成について編集チームととことん議論しますし、原稿も一言一句確認します。ここまで時間と労力をかけて並走してくださる企業の代表はいないのではないでしょうか。そう感じる一方で、「そういえば永野さんは、建物の設計でもアクティビティの企画でも、こうだったな」と思い出しました。

永野:プロジェクトのときも、立場上は出席しなくても問題ないミーティングまで参加して、図面はもちろん、現場の細かな仕上がりまですべて確認していましたからね(笑)。

伊藤:そして安易に「時間がないから」と先に進むこともしない。必ず立ち止まって話し合い、目線を合わせてから次へ進む。

黒いシャツを着た永野大輔が、テーブルを挟んで笑顔で両手を広げながら鼎談相手に話しかけている。背景には銀座の街並みの写真が飾られており、テーブルには書籍と水ボトルが置かれている。
永野大輔/Ginza Sony Park 主宰・ソニー企業株式会社 代表取締役社長

永野:3歩進んで2歩下がる感じですね。僕はこの本で、ソニーの創業者のひとりである盛田昭夫さんやソニービルの設計者である芦原義信さんの思想を、次の世代へ継承しなければいけないという使命感もありました。プロジェクトを進めているときも、当時のおふたりの思いが、自分たちがやろうとしていることと一致しているのか常に行き来していました。それを愚直に繰り返し、次のアクションを考えるという反復運動は、書籍の制作プロセスも同じですね。

伊藤:書籍『Document of Ginza Sony Park Project』は、時系列でプロジェクトを振り返る構成です。こうしてみると、時間は等間隔で流れていたはずなのに、時期によってページ数に差があることに気づきます。章割に関しても永野さんとやりとりを重ねましたが、この違いの決め手は何だったのでしょうか。

永野:ページを多く割いている章には、今まで対外的には語ってこなかった話が含まれているからです。建物やアクティビティは、実際に体験している方がいますが、その源流にある思想や意思決定のプロセスを知る人は限られています。だからこそ、記録して次の世代に引き継ぐべきだと思いました。

伊藤:永野さんにとって、思想とはどのようなものですか?

永野:プロジェクトを進める上で、最も大切で揺らぐことのない軸のようなものです。ソニービルからGinza Sony Parkにかたちを変えるのであれば、そこを拠り所にしなければいけないし、そこにしか拠り所がないとも言えます。

後編はこちら

プロフィール

伊藤総研/編集者・プランナー
1974年福岡県生まれ。広告キャンペーン制作、企業のコーポレートブランディング、雑誌や書籍の企画・編集、映像・Web制作など、幅広い領域で活動。2013年より「Ginza Sony Park Project」に参画。本書では企画・編集を担当した。
色部義昭/アートディレクター・デザイナー
1974年千葉県生まれ。株式会社日本デザインセンターで色部デザイン研究所を主宰。グラフィックデザインを軸に、平面から立体、空間まで幅広いデザインを手がける。2021年に「Sony Park展」のアートディレクションを担当。本書ではブックデザインを担当した。
永野大輔/Ginza Sony Park 主宰・ソニー企業株式会社 代表取締役社長
1992年にソニー株式会社入社。営業、マーケティング、経営戦略、CEO室などを経て、2013年よりGinza Sony Park Projectを牽引。2017年に現職就任、2025年に現在のGinza Sony Parkをグランドオープンした。